浅田次郎さん「壬生義士伝 (上)」 ★★★★☆ 浅田次郎 文春文庫 ・おのれらは貧と賎とを悪と呼ばわるか。富と貴とを、善なりと唱えなさるか。ならばわしは、矜り高き貧と賎とのために戦い申す。断じて、一歩も退き申さぬ。 ・剣の強え弱えは、免許でも目録でもねえ。場数さ。 ・「銭こに名前は書えてねえから」 ・何百年も続いた世の中の理不尽を、がっしりとその背中にしょってたんだ。その何百年の理不尽な仕組みを剣の力でくつがえそうとしたんだ。志士だよ、あいつらは。 ・いいか、上司からひとこと「馘」と言われたら、俺たちゃ本当に首が胴から離れたんだぜ。 ・武士のつとめは民草の暮らしを安んずることなのす。まずもって養うべき民草とは、おのれの妻と子だと思うのす。人の道はまずもって、妻子への仁と義より始まるのではござらぬか。 ・獅子奮迅の働きをしたにもかかわらず、武勇伝はひとことも語らなかった。 ・貧と賎と富と貴とが、けっして人間の値打ちを決めはしない。人間たるもの、なかんずく武士たる者、男たる者の価値はひとえに、その者の内なる勇気と怯懦とにかかっているのだ。 ・道化の中の道化 ・倒れていたらとどめを刺されるんです。死にたくなかったら、立ち上がって前に出るしかない。 ・「おまえはなかなか見所があるやつだな。他人の痛みをわかろうとしている。それは武士として大切なことだ。そういう侍がいなくなったから、世の中はこういうことになった。おまえもきっと傷ついたときには、痛いとも苦しいとも言わぬだろうな。近藤勇の武士道はそういうものでした。理屈じゃなかった。他人の痛みはわかってやりながら、自分の痛みはけっして他人に悟らせようとしない。何の理屈もなく、そういう武士道を生きた人だったんです。 ・「どのみち死ぬのは、誰しも同じだ。ここでよいと思ったら最後、人間は石に蹴つまづいても死ぬ。だが生きると決めれば、存外生き延びることができる」 ・「何ができると言うほど、おまえは何もしていないじゃないか。生まれてきたからには、何かしらすべきことがあるはずだ。何もしていないおまえは、ここで死んではならない」 「壬生義士伝 (下)」 ★★★★☆ 浅田次郎 文春文庫 ・まだまだ苦労が足らぬ。 ・才子を以って任ずる者は、とかく他人を軽んずる。頭脳のよしあし、学問のあるなしなどということは、紙一重の才にしか過ぎぬ。しかし、技や力はちがう。強い者が勝つ。 ・おのれの信じた義の道を見失うまいとし、それが武士じゃ、それが男じゃ、それが人間じゃと、声のかぎりに叫びながら生きておった。 ・「南部は必ずや、義のために戦い申っす。女子供まで曲げてはならぬ義の道をば知っており申す。わしは南部の侍じゃから、義に背くようなお恥す真似は、ゆめゆめ致し申さぬ」 ・「南部の子だれば、石ば割って咲け」 ・人を束ねる器量てえのは、学問じゃあござんせん。苦労の分だけ、そういう器はちゃあんと備わるものでござんす。 ・生き方を知らねえ男に、死に方なんざわかるもんかい。 ・男なら男らしく生きなせえよ。潔く死ぬんじゃあねえ、潔く生きるんだ。潔く生きるてえのは、てめえの分を全うするってこってす。てめえが今やらにゃならねえこと、てめえがやらにゃ誰もやらねえ、てめえにしかできねえことを、きっちりとやりとげなせえ。 ・此二品 拙者 家へ ・銭てえのは、命を的に稼がにゃならねえこともあるが、天から降ってくることもあるんです。こんなものに振り回される人間てえのァ、悲しい生き物だなァ。 ・誠には誠を以って応えねばならぬ。 |